夕食は根ぼっけ
−北海道二都物語−


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 夕食は何軒かの候補の中から函館駅前通りを少し左に入った「根ぼっけ」に決めた。

居酒屋根ぼっけ 「居酒屋 根ぼっけ」の提灯が軒先を飾り、うなぎの寝床のように奥に長い店構えだ。座敷や二階もあって宴会もできるようだが、暖簾をくぐると奥の座敷に案内されかかったので「カウンターは?」と係りの女性に尋ねた。

 ふつうカウンターは常連さんが占めているのだが、たまたま二つだけ真ん中がぽっかりと開いていたのでそこに入れてもらった。

 地方を旅してその町を知るためには、地元の方と触れ合うのがいちばん手っ取り早い。それも飲み屋のカウンターに限る。酒の勢いも借りて思いがけない生の声を聞くことができる。わたしはいつも、できる限りカウンターに座ることにしている。

<親切なジモヤン>

 明日から東京に出張するという、函館育ちのサラリーマンの方がこちらにちらちらと目線を送っていたが、やがて話しかけてきた。東京から来たと察したからのようである。

夜の酒場での出会い まず「函館にはおいしい蕎麦もありますよ。」というご推薦の話。
北海道の蕎麦といえば道北の内陸・幌加内が有名。十勝の新得町も蕎麦の産地。わたしは函館に蕎麦はそぐわないと思うから聞き流した。

 つぎはラーメンの話題で、「函館ラーメンは塩」という話から評判店を紹介された。
 しかし何日も滞在するわけではないから、よい店を紹介されても宝の持ち腐れとなってしまう。気持ちだけいただくことにしたつもりが、けっきょく店を出てからタクシーに乗って、そ塩ラーメン龍園のうちの一軒で食することにあいなったのだが。(明らかなカロリーのとり過ぎ=レッドカード)

 「大沼の紅葉はまだ早い」とか、「松前や茅部はどうだ」とか観光情報も懇切丁寧に教えてくれる。

 いつも旅をして感じることだが、地元の人は概して旅人にやさしい。

 無警戒なところが気にかかるが、旅人を騙してやろうなどという輩は皆無に近い。この日本人的特質は、たいへんありがたいが日本人はなんでこう親切なのだろう?

 これまで外国から侵略された経験を持たないから?
 でも最近は外国人の犯罪を間近で見るようになり、多少警戒感を感じてもいいように思うのだが・・・それでも親切であるに越したことはない。

笑顔も素敵な母親は、働き者<子持ちの美人>

 24歳の美しい店員はてきぱきと仕事をしているが、4歳の子持ちだという。酔客にからかわれながらも、笑顔を絶やさない。

 そのからかいの張本人たちは、二人して良からぬ夜の遊びの企みをめぐらせていた。一人は関東の出身と言っていたが、外見の若さとは裏腹に、流れ流れて流転の果てに、という雰囲気を持っていた。頭を角刈りにして、どことなく高倉健さんに似た風貌で・・・。

 遊びの企みがまとまったのかいつの間にか二人は姿を消していた。

<おやじさん>

ねぼっけの大将 「根ぼっけ」の親父さんは筋金入りの料理人で、一人で地元産のホッケやイカ、タチ、カレイなどの海鮮料理に取り組んでいる。一人でさばいて、煮て、焼いて、常に手元は忙しく気が抜けない。手際は鮮やかだが、大忙しである。

 北海道で一般にほっけといえば皿からはみ出るほどの開き魚で、概して大味である。一人前いただけばそれだけでお腹がいっぱいになってしまう。

 ここではまず、半身の「ねぼっけ」を焼いてもらった。「ねぼっけ」はこれまでの「ホッケ」と何かが違う。脂が乗っていて美味であった。

<ねぼっけって? ねぼけんじゃあないよ!>

 さてこの店の店名にもなっている「根ぼっけ」とは?

 一般的に海底の根に棲みつく大型の「真ほっけ」のことを意味する。

 通常ホッケは回遊魚であるが、泳ぎ回るために体力を消耗し、体内においしい脂を蓄積することができない。これに対し「ねぼっけ」は一箇所に住み着くため、旨味を十分に蓄えながら成長する。


 この店で供する「ねぼっけ」は潮の速い恵山沖(この日の昼間ドライブした椴法華のあたり)と松前小島附近の水深150mから200mで獲れる。目方2kg前後で体調50cmくらいという。


 酒がおいしい。
 親父さんの手が一段落したところで活ヤリイカ、活ツブ貝、ブリ刺を順番に頼んだ。いずれも安価な道南近海の海の幸である。

 酔いもまわり気分よくなって、プロ職人のおやじさんの話を聞く。この人柄を目当てに客はカウンターに集まってくる。

 函館の秋の夜は深々とふけていった。もう一度来たい店が増えた。

「ねぼっけ」のホームページ

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